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Selfishly

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Pa18 「学友」


~ スローライフ ~



          Pa 18「学友」  H18,2/19,22:30

「馬鹿じゃないの。」
そんな辛らつな言葉も、今のエドワードには
対した事ではなかった。

エドワードを良く知っている者が見れば、
「調子が悪いのか!」「病か!」と大騒ぎしそうな事件だ。

やられたら やり返すを自身の行動の基盤にしているふしが
見受けられる彼にしてみれば、
そんな暴言を吐かれて、大人しくしているなど
有り得ない事態だ。

が、今のエドワードは途方に暮れていた。
余りに困惑する状況におかれていて、
しかも 経験がなかった事柄ばかりで対処に困っており
横からかけられた言葉に、いちいち反応する余裕もない。

「失礼だよ、ディ。」
そんな彼を、同じ席に座っていた青年が咎める。

「でも、そうだろ。
 餌にされてて、しかも面倒ごとを
 押し付けられようとしてるのに
 進んではいはい言う奴が、馬鹿じゃーなくて
 何だって言うわけ。」

そこまで言われて、やっとエドワードの脳内に
言われていることが、自分の事なのだと理解できた。
そして、その相手を見る。


それが、3人の出会いの始まりだった。


事の始まりは、選択授業の課題の一環、
グループ研究にある。
幼少の頃から、集団教育を受けていなかったエドワードにしてみれば
グループ研究なるものが、どんなものかも
どんな風にするのかも理解ができなかったが、
周囲から 名指しで呼ばれて行ってみれば
あれよあれよと言う間に、グループ参加を決められていた。

打ち合わせと称して、帰りの支度が終わるや否や連れ出され
大学近くのカフェバーへ連れて来られる状況だった。

「エドワード君、何を飲む?」
同じグループだと言う女性に メニューを差し出されて聞かれる。
やたらと傍に寄られるのには、困惑気味になる。

「エドワード君には、まだお酒は早いんじゃないかな。」
皮肉そうに言う男は、エドワードの横に座る女性が
彼を構うのが嫌らしく、先ほどから エドワードに
強い視線を送ってくるが、当の本人は 何でかわからずにいた。

「あら、そんな事はないわよ。
 私だって、エドワード君の歳には飲んでたわよ。」

ネッと微笑まれて、エドワードは何と返せばよいかに困る。

確かに周囲には、アルコールを嗜む者が大勢いた。
だから、エドワードも酒を飲む雰囲気がわからないわけではない。
が、今までの者達は 決してエドワードに
アルコールを勧めるような非常識な立場の者はいなかった。

が、同年代となると違うらしく
未成年の飲酒を平気で勧めてくる。
そして、勧める方も未成年なのだから、
エドワードが返答に困っても仕方が無いだろう。

『これが世に言う、付き合いってやつか。』
ため息をつきなくなるような内心を押し隠し、
ノンアルコールを頼む。

少し残念そうな彼女の表情には 申し訳ないような気がしたが
課題の打ち合わせにアルコールは不必要だろうと
考える・・・・、のは自分一人だったようだが。

「でね、エドワード君には ぜひとも 私達とグループに
 入って欲しいわけ。」
今度は、向かいに座る女性に熱心にお願いをされる。

エドワードにしてみれば、名指しで呼ばれたので
てっきり班分けみたいなものがあって、
すでに決定してるものだとばかり思っていた。

「え~と、俺。
 グループ研究ってのがイマイチわからないんだけど、
 何をすればいいわけ?」
 
向かいに座る女性に聞いてみる事にする。
エドワードには、知らないことを物知り顔に済ますような
見栄はない。
錬金術の世界で、そんな事をしようものなら
どんな事になるかわかったものではない。
なので、知らないこと、解らないことは 素直に聞くようにしている。

そんなエドワードに、女性達は「可愛い~。」などと笑い、
男達からは、『これだから、お子様は。』という嘲笑の眼差しを向けられる。
エドワードにしてみれば、どうにかしてくれよな心境ではあったが
取り合えず説明してくれる意志を見せる女性から
話を聞く姿勢を見せる。

「え~とね、今日 発表された課題があったじゃない?
 それをエドワード君に、取り組んで欲しいわけ。」

確かに今日の課題をやるようにと教授が言っていた。

「わかった。 で、グループ研究って?」

「君がやった課題を俺達に教えてくれればいいのさ。」

斜め前に座る青年が、口をはさんでくる。

「俺が、教えるのか?」不思議そうに聞き返すエドワード。

「そうなのよ。
 それで、それを皆で教授の前で発表するようにして欲しいの。」

それがグループ研究になるのかはエドワードにはわからなかったが、
取り合えず 「わかった。」と返事をする。

途端に 周囲の人間は朗らかになり、
その後は、ただの飲み会となり エドワードに根掘り葉掘り
話を聞きだそうとする女性達に当惑させられる事になる。

そんな時に、隣のテーブルにいた者から、最初の暴言が飛ばされたのだ。

「あんた、誰?」
エドワードが 暴言を吐いた青年の顔をみる。

「俺は、デイビット・ランサー、
 んで、こっちは アルバート・リンガーさ。
 以後、お見知りおきを。
 高名な主席君。」
にやにやと笑いながら自己紹介をする彼をまじまじと見、
横に控える 人の良さそうな連れをみる。

「よろしく。
 俺の名前は エドワードで主席君なんて名じゃないけどな。」
相手の皮肉に、エドワードも皮肉で返す。
こういうのは、得意だ。

「そりゃ、失礼。」
エドワードが そう返すと、相手は方眉を上げて面白そうに
エドワードを見返す。

「んで、あんたが言ってた 「餌」ってなんの事?」
さっきのセリフに対する質問をする。

「エドワード君、構うことないのよ。
 ほっときなさい。
 自分達がエドワード君をグループに入れれなかったから
 妬んでいるだけなのよ。」

向かいに座る女性が、勝ち誇ったように ディビットと名乗った男に言う。

「何で? 俺をグループに入れれないと妬むんだ。」

「そりゃーもちろん、課題の評価に
 例え他力本願でも『優』が欲しいからさ。」
ディビットが 意地悪そうな笑顔を向けて、
エドワードのテーブルに座る周囲のメンバーを見渡す。

エドワードの脳内で、今の状況と 男の言った言葉を照らし合わしていく。

確かに世間に疎いエドワードであったが、
状況が見えない馬鹿でもない。
逆に、少ない情報からも 間違いなく正しい答えを引き出す事に
長けている彼の事だから、
今までの経過で、周囲の思惑と 無礼な男が言いたい事が
だいたい見えてきた。

「わかった。
 あんたのセリフは こう言いたいわけだ。

 どうやら、グループ研究を俺にさせて
 全員の研究という事で発表すれば、
 俺がもらう評価が 皆にも付くってわけだな。」

どう間違ってる?と伺うようにディビットに目をむけると

「ご名答~!
 優秀な君の事だから、もちろん成績は優を取るだろうから、
 グループの者は、労せず優秀な成績がもらえるというわけだ。」

どう、真相は?とおかしそうに聞いてくる男は
それを聞いたエドワードが起こすだろう今後の反応を
楽しんでいるようだ。

『やれやれ・・・。』
エドワードは 内心苦笑を漏らしていたが、
表面上、全く平静を装っていた。

「ご忠告、サンキュー。
 あんたの言いたい事はわかった。」
朗らかにと言ってもおかしくない表情で、
笑ってエドワードが、そう返すと。
男は「へっ」と言う間の抜けた顔を一瞬したが、
その次には、ふ~んとまじまじとエドワードを見た。

「エ、エドワード君、まさかグループを変えるなんて
 言わないよな。」
それまで、敵愾心旺盛にエドワードを見ていた正面の男が、
機嫌をとるようにエドワードを伺ってくる。

「ああ、俺は返事を返した事は守る。
 だから、別に今更グループを変えるなんてしないさ。」

エドワードが そう言うと、周りのメンバーも
安堵の吐息をつぐ。
それを、何を思うでもなくエドワードが見ていたが、
彼が告げた言葉は、浮かれているメンバーを
黙らせるのには十分だった。

「んで、俺の発表で優をもらえたとして
 あんたらが 本当に身に付くものはな~んもないぜ。
 自分の身にしたけりゃー、自力で頑張るしかないからな。

 で、次回はないから そう思っておいてくれ。」

シーンとした周囲の動揺をよそに
エドワードはさっさと帰り支度を整えて席を立つ。

ピュ~と口笛を吹く向かいの男の席に行き、
エドワードは礼を言う。

「助言、サンキューな。」
そう言うエドワードの度量の広さも、男は気にいったようだ。

「どう致しまして、役にたたずで申し訳ないな。」
心底すまないと思っているのだろう、
ディビットの表情には、悔やんでいる事が見て取れた。

口は悪いが人は良さそうなこの男が
結構 気にいった。

「んで、改めて。
 エドワード・エルリックだ。」

「俺は・・・。」

「 デイビット・ランサーだろ?
 んで、こっちは アルバート・リンガーさん。」

悪戯っ子のような笑顔で、1度聞いた名前を言ってやれば
相手の方が、驚いたような顔をする。

「さすがは、主席だな。
 人の名も覚えるのが早いとみた。」
おかしそうに 手を伸ばし握手を求める。

エドワードも、差し伸べられた手を拒むことせずに
握り返してやる。

「俺の事は、ディーと呼んでくれ。」

「僕の事は、アルでいいよ。」
隣に控えていた 優しそうな青年が
同様に握手のために、手を差し出す。

それを受け止めながら、
「アル?
 弟と一緒だ。」とエドワードが答えると

アルバートは、そう 偶然だねと微笑む。

『なんか、雰囲気も似てるかも。』
思わず親近感を抱いてしまう。

「んで、エドワード。
 どうやら、メシを食いっぱぐれたようだから、
 店変えて メシでも食いに行くか。」

「OK、俺の事も エドでいい。」

隣のメンバーの思惑も動じずに、3人は 和気藹々と
出て行った。

道すがら、さっき考えた中で解らなかった事柄を
2・3聞いてみる。

「餌って どういう意味だったんだよ。」

「なんだ、お前。
 気づいてなかったのか?

 そら、横に座っていた女性が居ただろう栗色の髪の。
 あの子があんたにご執心だったんで、
 向かいの男が、お前を餌にして相手を誘ってたんだ。」

ふ~ん、とうなずく。
どうりで、やたらと向かいに座る男から
鋭い視線が向けられてたわけだ。

「んで、あんた達が あそこに居たのは偶然なわけ?」
にやりと笑いながらエドワードが聞くと、
ディは うっとつまった様な顔をして、
ぷいっとそっぽを向いてしまった。
耳まで赤くしている所をみると、
彼は 柄にもなく照れ屋なようだ。

横で、クスクスと笑うアルが真相をばらす。
「あのねエド、ディは 君が連れて行かれる前から
 見ていて、心配で後を付けようって言い出したのさ。」

「アル、余計な事をしゃべるな。」
真っ赤にした顔を、さらに赤くして言うディに
エドワードとアルは、顔を見合わせて大笑いした。

「笑うなよ!
 だって、ほっとけないだろ。
 世間に疎そうな、お坊ちゃまが
 あいつらの餌食になるんだと思ったんだよ。」

はぁ~とため息をつきながら吐き出されたセリフには
まだ、先があったが 小さくつぶやかれたので
エドワード達には聞こえなかった。

『まさか、あんなにしたたかとは思わなかったんだよ。
 外見からは・・・。』
ディにしてみれば、華奢な歳若いエドワードは
護るべき対象に見えたとしても仕方が無い事だろう。
エドワードは、黙ってさえいれば
確かに、容姿は深窓のご令息と思ってもおかしくない。

騙された・・・と、エドワードの容姿から判断した相手が
皆、そう思ってきた道を、ディも踏みしめる事となった。

その後、3人で楽しく食事をし 
同年代の友人を持った事の無いエドワードにしてみれば、
初めての経験に近いものがあった。

返り間際、課題を心配している二人が親切に声をかけてくる。

「課題を一人でやるのは、大変だろ。
 何なら、俺らがやるのと一緒にやるか?」
そう心配してくれる初めての友人に、
エドワードは不敵な笑顔を向けて返す。

「大丈夫さ。
 俺をタダでこき使おうってんだから、
 報復を受けても仕方ないさ。

 俺は、高いんだ。」
そう悪者ぶって言い切るエドワードに、
二人は、苦笑を浮かべる。
メンバーの同情の為に・・・。


「ただいま~。」
遅くなった帰宅に、どうやら主が 珍しく早く帰っているようで
いつもと逆の挨拶をしながら入っていく。

「お帰り。
 遅かったんだね。」

リビングで寛いでいるロイが挨拶を返してくる。

「うん。ってか、あんたが珍しく早いだけじゃない?」

「ああ、今日はスムーズに進んでね。」

「食事は?」

「会食があったんで、済ませてきた。
 そういう君も済ませてきたのかな?」

機嫌が良さそうなエドワードの表情で、
何かあったのだろうと想像する。

「ああ、友達と食べてきた。」

そうエドワードが自然に言った言葉に、
ロイは ほうっと目を瞠る。

「それは、良かったね。」

エドワードが 大学に通うようになってから、
友達という単語が出てきたのは これが始めてだった。
誘いが少なくないエドワードだったが、
最初の頃は、付き合いも兼ねて出かけていたようだが
ここ最近は、断ることが増えていた。

『そのエドワードに、友人ね。』
嬉しそうにしているエドワードにつられてロイも表情を緩める。

そして、エドワードが友人に選んだ人間に興味も湧く。
「どんな友人なんだね。」
とロイが聞くと、エドワードは 今日あった事の顛末を話し始める。


聞き終わったロイが、おかしそうに言う。
「それはそれは、君をコケにしようとするとは
 素晴らしい度胸としか言いようがないね。」
知らないと言う事は、時にとんでもない暴挙に出るものだ。
このエドワードを、餌に使おうというのだから
恐れ入るとしか言いようが無い。

「だろ~、ほんとに参るよ。
 俺って、優しいから 断れないしさ。」
さも困ったようにうそぶくエドワードに
ロイはさらに込み上げてくる笑いを抑える事が出来なかった。

「なるほど、それで優しい君は どうするんだい?」
肩を震わせて笑うロイに、失礼だぜアンタ。と
苦笑を浮かべて注意する。

「自分で努力しないものは身にならないって
 教えてやるつもり。」
俺って親切だからと言葉を足して、
にやりと人の悪そうな笑顔でエドワードが、
そう言うと

「そうだな、経験は1番の学習方法だ。
 しっかり教えて上げ給え。」と
ロイもにやりと笑い返す。


そして、発表の場。
教授にこってりと絞られる事になったエドワードのメンバーは
再提出の憂き目にあい、さらに課題を倍に増やされた。
エドワードは、グループから免除され
きちんと「最優」の評価を手に入れる。

教授が絶賛したエドワードの課題は、
高度すぎて、メンバーには1つも理解できなかったのだ。
教授に指摘される度に、しどろもどろに返答するメンバーの中
すらすらと暗記しているように回答を答えるエドワードの態度に
長い教授生活で得た経験上、
メンバーが何をしたかを悟った教授は、
正しい判断の元、評価を下した。

が、お叱りも受けた。
「エドワード君、君があった事には同情する。
 だが、それを正す努力を放棄するものではないよ。
 仲間を持つとは、そういう面倒も見るということだ。」
厳しい事に有名な教授からの言葉に
エドワードは 素直に頭を下げた。
彼は ちゃんとエドワードの足らない点もわかっていたのだ。
以後、気をつけますと素直に謝るエドワードに
教授は、細い目をさらに細めてくしゃっと笑い 
エドワードの頭を撫でて去っていった。
撫でられたエドワードも、心がほんわりと温まる気がして
去る教授見送った。

「お見事~。」
パチパチと拍手をする真似をしてディが声をかけてくる。
「すばらしかったよ、エド。」
アルが課題の評価を素直に告げてくれる。

「ありがとう、あんたらのも良かったよ。」

エドワードのように、「最優」の特例はもらえなかったが、
二人の発表も、「優」もらった良い出来だった。
グループ発表の中では、最少人数の2人だったが
発表された内容は、多角面から分析され、考察された
なかなかのものだった。

「まあな、俺らって優秀だから。」
エドワードは、そのディに苦笑するしかない。
今まで、エドワードの前で自分の優秀さを告げれる者など
一人をおいて、他にはいなかった。
大抵のものは、エドワードの前に出ると 引いてしまう。
天才と呼ばれる人間を前に、自分が優秀だと言える者は
そうは多くないものだ。
まぁ、その希少な一人は 今はエドワードの保護者兼雇い主の男だが。

「で、無事に発表も終わったから、祝杯でも挙げに行くか。」
賛成とアルと声を揃えてエドワードも返事を返す。

道すがら、ロイに頼まれていたことを伝えながら歩く。
「今度、うちに来てくれないか?」

「家って、君の保護者の?」
穏やかに聞き返すアルに、エドワードも頷く。

「ああ、申し訳ないんだけど
 どうしても、そいつが挨拶をしたいって言うんだ。」

「ああ、それは別に良いけど。
 何、お前のとこの保護者って 煩いわけ?」

「いや別に煩くは無いけど・・・。」
(ちょっと、過保護なだけなんだ。)とは心の中でだけ告げる。

後日、ロイの家を訪れた彼らが
保護者が ロイ・マスタング氏だと知って驚愕に陥った。
そこで初めて、こいつって何者?とエドワードを見る事になる。

そして、ロイからは「合格」という
意味不明な言葉を告げられたエドワードが
その真相の意味を知るには、大分と時間がかかった。


[ あとがき ]
今回はオリキャラが準主役となって出てまいりました。
エドに友人を作ったら、どんなキャラが出来るのかと
一人楽しく妄想を飛ばし、出来たのが この二人です。
これからも、結構活躍するので 宜しくお願いしますね~。

ロイがエドワードに告げた「合格」のラインは、
当然、エドワードに下心を持ちそうか、そうでないかが基準ですよ~。(笑)


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